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札幌地方裁判所 昭和59年(行ウ)37号 判決 1988年1月29日

原告

有限会社昭和運輸

右代表者代表取締役

澤田俊雄

右訴訟代理人弁護士

斎藤裕三

被告

北海道地方労働委員会

右代表者会長

二宮喜治

右訴訟代理人弁護士

藤本昭夫

右指定代理人

日諸猛男

望月保

土谷幸治

旅河雅一

須田修

被告補助参加人

全日本運輸一般函館合同労働組合

右代表者執行委員長

佐藤達雄

右訴訟代理人弁護士

三橋彬

佐藤哲之

長野順一

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が昭和五六年道委不第三六号及び昭和五七年道委不第三〇号不当労働行為救済命令申立事件について昭和五九年九月二〇日付けでした別紙(略)の救済命令のうち訴外渡辺建爾の解雇を不当労働行為としてした救済命令部分(右命令主文第1項並びに同第4項及び第5項中の訴外渡辺建爾の解雇に関する部分)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

二  被告及び補助参加人

主文と同旨の判決を求める。

第二当事者の主張

一  原告

1  原告は、貨物運送事業を目的とする有限会社であり、訴外渡辺建爾(以下「訴外渡辺」という。)は、原告の従業員であったもので、かつ、現に補助参加人の組合員である。

そして、原告は、昭和五六年六月一六日、訴外渡辺を解雇(普通即時解雇)した(右解雇を以下「本件解雇」という。)。

補助参加人は、昭和五六年八月一九日及び昭和五七年四月三〇日、原告を被申立人とし、本件解雇が不当労働行為であることその他を理由として、これに対する救済の申立てをし(昭和五六年道委不第三六号及び昭和五七年道委不第三〇号不当労働行為救済命令申立事件)、被告は、昭和五九年九月二〇日付けで、原告に対して別紙の救済命令を発し、本件解雇については、それが労働組合法七条一号及び三号に該当するものとして、右命令主文第1項並びに同第4項及び第5項中の訴外渡辺の解雇に関する部分のとおりの救済を命じ(右命令部分を以下「本件命令部分」という。)、右命令は、同年一〇月五日に原告に交付された。

2  しかしながら、本件解雇を不当労働行為であると認定・判断した本件命令部分は、事実の認定及び評価を誤ったものであって、違法である。

すなわち、原告は、訴外渡辺が、昭和五六年五月二二日、原告本店事務所のカウンター清掃作業に従事中、付近にいた原告の代表取締役澤田俊雄に対して、「ちょっとどけや」、「おれをだれと思っているんだ」、「外へ出ろ」などと暴言を吐き、同人の襟首をつかんで外へ引っ張り出そうとするなどの暴行を加えたこと、昭和五五年四月に原告に雇傭されて以来、再三にわたる注意にもかかわらず、出勤すべき日数三五八日のうち二八・五日欠勤し二四七回も遅刻するなどその勤務成績が不良であったこと、業務命令に従わないことがあったことを理由として正当に本件解雇をしたものであって、原告は訴外渡辺が当時労働組合を結成しようとしていることを全く知らず、したがって、原告が訴外渡辺が労働組合を結成しようとしていることを理由として訴外渡辺を解雇したとかそれに支配・介入したなどということはそもそもあり得ないことであるにもかかわらず、被告は、事実を誤認しその評価を誤って、本件解雇を労働組合法七条一号及び三号に該当するものとして、本件命令部分のとおりの救済命令を発したものである。

3  よって、原告は、本件命令部分の取消しを求める。

二  被告及び補助参加人

1  請求原因1の事実は、認める。

2  同2の主張は、争う。

原告が本件解雇をした経緯は、別紙の救済命令記載の認定・判断のとおりであって、本件命令部分にはなんらの違法もない。

第三証拠関係(略)

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがなく、右争いがない事実と(証拠略)を総合すると、先ず、次のような事実を認めることができ、前掲証拠中以下の認定に反する部分はたやすく措信することができず、他には右認定を覆すに足りる証拠はない。

1  原告は、従業員約四十数名(そのうちの数名は一般事務に従事する者、その他は貨物自動車運転業務に従事する者)を擁し、業務用貨物自動車二十数台を使用して、北海道内及び本州方面への貨物運送事業を営むことを目的とする有限会社であって、本件解雇当時以来、代表取締役である訴外澤田俊雄並びにいずれもその子である専務取締役の訴外澤田俊明及び常務取締役の訴外澤田哲義が経営陣を構成し、実際にもその経営に当たっているものである。そして、訴外渡辺は、昭和五五年四月八日に原告に雇傭されて以来、原告の本店において非管理職として一般事務に従事していたものである。

他方、補助参加人は、大正一二年に結成された一般労働者を組織対象とする労働組合であって、本件解雇当時、約三八〇名の組合員を擁していたものである。

2  ところで、原告においては、毎年六月に従業員の賃金の引き上げ額が定められるのを通例としていたが、従来、専ら原告の従業員のみをもって構成されるいわゆる企業別組合は結成されておらず、また、従業員中には産業別組合又は一般組合に加入している者もいなかったため、組織的な賃金交渉等が行われたことはなく、先任の従業員やたまたま居合わせた従業員等が全体の従業員の利益や意向を事実上代表して原告の経営者と交渉し、賃金引き上げ額を定めるのが通常であった。

3  ところが、訴外渡辺その他の一部の従業員は、右のような賃金交渉等の在り方に不満を持ち、訴外渡辺は、昭和五六年六月一一日に予定されていた賃金交渉に先立つ同月九日昼頃、原告の従業員で貨物自動車運転業務の職にあった訴外小田川昇、同下田勉、同梅津昭一及び同寺谷広之らと賃金交渉の方法等について協議し、むしろ従業員全員で賃金交渉に臨むべきであるとの提案をするなどした。

さらに、訴外渡辺、同小田川昇、同梅津昭一及び同寺谷広之は、同日夜、訴外渡辺の妻の経営するスナックに参集して、引き続き賃金交渉の方法等について協議したが、従業員全員で賃金交渉を行うことを強行した場合に生じ得べき事態にどのように対処すべきかに不案内であったため、労働組合活動に通じた者から助言を得ることとして、訴外渡辺と係りのあった民主商工会を介して補助参加人の専従職員で書記長の訴外石川孝を呼び寄せて、助言を求めたところ、訴外石川孝は、原告の意思を無視して従業員全員で賃金交渉に臨むことにした場合には、業務命令に違背したものとして原告から懲戒処分を受ける恐れがあること、したがって、そのような事態を避けるためには、従業員が個人で補助参加人の組合に加入し、補助参加人の支部組合として原告の従業員からなる労働組合を結成する方途があることなどを説明した。

そこで、訴外渡辺らの右参集者は、さらに、従前から原告との賃金交渉等において主導的な役割を果たし従業員の中でも先任者に当たる訴外下田勉を呼び寄せて、その意見を求めたところ、訴外下田勉は、労働組合に加入し又は労働組合を結成するなどした場合には原告から差別的取り扱いを受けて収入が減少する懸念があるなどとの意見を表明したため、一部には右のような行動に出ることに消極的な向きも生じて、結局、右参集者全体としては、補助参加人の組合に加入するとか、原告の従業員をもって労働組合を結成するという方向で協議が整うまでには至らなかった。

しかしながら、訴外渡辺は、同月一一日に予定されている原告との賃金交渉を従業員全員で行うこととしたいとの意見を持ち、訴外石川孝の助言に従って、個人で補助参加人の組合に加入したい旨をその場で訴外石川孝に告げるなどし、翌一〇日、補助参加人の事務所に赴いて、補助参加人への組合加入の所定の手続を採った。

4  そして、訴外渡辺は、同月一〇日、翌日に予定されている原告との賃金交渉への従業員全員の参加を呼び掛けるポスターを原告本店の事務室又は従業員控室等に貼るなどしたが、原告代表取締役澤田俊雄は、これを見とがめ、訴外渡辺が右のような活動に従事していることを知った。また、原告専務取締役澤田俊明及び同常務取締役澤田哲義は、右同日、訴外小田川昇、同梅津昭一及び同寺谷広之に対して、翌一一日に運送業務に従事すべき旨を命じ、その際、同人らに対して、従業員の間で従前とは異なる賃金交渉を行おうとする動きがあることを牽制するような発言を行った。そして、右訴外小田川昇、同梅津昭一及び同寺谷広之は、右命令を応諾して翌一一日には運送業務に従事したために、賃金交渉には参加できないことになった。

また、訴外渡辺は、賃金交渉の当日の同月一一日、原告本店事務室において、賃金交渉に参加するように従業員に電話による連絡をするなどしたが、原告代表取締役澤田俊雄は、これを傍らで聞き知り、訴外渡辺が従業員全員による賃金交渉の呼び掛けについて主導的な役割を果たしていることを知った。

5  以上のような経過の末、同月一一日に行われた原告との賃金交渉には、訴外下田勉を始め一〇名前後の貨物自動車運転業務従事者及び訴外渡辺ほか二、三名の一般事務従事者が参集したが、原告専務取締役澤田俊明は、先ず、訴外下田勉と個別に面談して、貨物自動車運転業務従事者と一般事務従事者とを分けて賃金交渉を行うことを応諾させたうえ、貨物自動車運転業務従事者の一部と賃金交渉を行って賃金引き上げ額を定め、次いで、原告代表取締役澤田俊雄は、訴外渡辺ほか二名の一般事務従事者に対して、賃金引き上げ額を提示して、訴外渡辺を除く一般事務従事者の同意を得たが、訴外渡辺は、右の提示にかかる賃金引き上げ額には同意しなかった。

6  訴外渡辺は、その後も引き続いて補助参加人の組合に加入する従業員を募って、補助参加人の支部組合として原告の従業員による労働組合を結成することを計画して、同月一三日、訴外渡辺方において訴外梅津昭一ほか数名の従業員と協議をして、その具体化に向けた行動を開始し、また、同月一五日、補助参加人の書記長訴外石川孝とこれについての協議をするなどした。

そして、訴外渡辺及び同梅津昭一並びに原告の従業員の訴外佐々木司、同金子雅幸及び同宮腰文晃は、同月二一日までに補助参加人の組合に加入するとともに、右同日補助参加人の支部組合としての労働組合の全日本運輸一般函館合同労働組合昭和運輸支部の結成大会を開催して、訴外佐々木司を支部長、訴外梅津昭一及び同宮腰文晃を副支部長、訴外渡辺を書記長に選任するなどして、組織等を定めて、労働組合を結成し、同月二三日、原告に対して、労働組合の結成の通知をした。

7  原告代表取締役澤田俊雄は、以上のような一連の経過の間の同月一六日、訴外渡辺に対して、本件解雇をした。

二  右事実によれば、原告代表取締役澤田俊雄、同専務取締役澤田俊明及び同常務取締役澤田哲義らの原告の経営者が、本件解雇以前において、訴外渡辺が従前の賃金交渉の方法に不満を持ち、従業員全員による交渉を提言してこれへの参加を従業員に呼び掛けるという一連の動向について最も主導的な役割を果たしていたことを熟知していたことは明らかである。そして、右の従業員全員による賃金交渉の方法は、当初から原告の従業員が個人で補助参加人の組合に加入し又は補助参加人の支部組合として原告の従業員からなる労働組合を結成することと関連づけて協議され具体化しようとされていたのであって、このような労働組合への加入又は労働組合の結成についても訴外渡辺が最も積極的な姿勢を示していたものであるところ、これらの協議の過程に参画した者の総てが同様の考えを持っていて右のような動きに賛同していた訳でもなければ、終始行動を共にしていたものでもない(右協議の過程に参画した者のうち補助参加人の組合に加入し支部組合の結成に参加して訴外渡辺と行動を共にしたのは、結局、訴外梅津昭一ひとりに過ぎない。)のであるから、原告の経営者らが、本件解雇以前において、右参画者のうちで必ずしも訴外渡辺と志を同じくしない者を通じて又は訴外渡辺の挙動から、訴外渡辺が個人で補助参加人の組合に加入していること若しくは加入しようとしていること又は他の従業員に補助参加人の組合への加入を呼び掛けていることあるいは訴外渡辺が補助参加人の支部組合として原告の従業員からなる労働組合を結成しようとしていることを聞知していたであろうことは、容易に推認することができるところである。(<証拠略>中、原告の経営者らが本件解雇以前においては右の事実を知らなかったとする部分は、たやすく措信できない。)。

そして、このように、訴外渡辺は労働組合への加入又はその結成に向けて最も主導的な役割を果たしていたものであって、原告の経営者らもこれを知っていたこと、本件解雇は、訴外渡辺のこれらの動きに対応して、時を移さず約一週間以内に行われたものであること、被告における本件に関する審問の結果(<証拠略>)によれば、原告又はその経営者らは、労働組合、特に補助参加人又は全日本運輸一般函館合同労働組合昭和運輸支部に対して激しい敵対・嫌悪感情を持ち、本件解雇に引き続いて、別紙救済命令に記載の被告の認定・判断のとおり、種々の態様における右労働組合に対する支配・介入及び右労働組合の組合員に対する不利益取扱いの不当労働行為を反復・継続していたことが認められることに鑑みると、原告が特に右の時期において本件解雇をしたことを首肯させるに足りる他の合理的な理由が存在することが認められるのでない限り、原告は、その従業員の団結権を侵害する意図をもって、労働組合への加入又はその結成に向けて最も主導的な役割を果たしていた訴外渡辺を原告の企業外に排除するべく、本件解雇をしたものであると推認するのが相当である。

三  そこで、原告が特に右の時期に本件解雇をしたことを首肯させるに足りる他の合理的な理由が存在するかどうかについて検討すると、原告は、訴外渡辺が昭和五六年五月二二日に原告代表取締役澤田俊雄に対して暴行を加えたこと、昭和五五年四月に原告に雇傭されて以来著しく遅刻、欠勤が多いなどその勤務成績が不良であること及び業務命令に従わないことがあったことを理由として正当に本件解雇をしたものであると主張する。

そして、差し当たって、(証拠略)の結果によれば、次のような事実を認めることができる。

1  訴外渡辺は、昭和五六年五月二二日午前八時過ぎ頃(ただし、右日時の特定については、後記のとおりの疑問がある。)原告本店事務所において、同所に設けられたカウンターの拭き掃除作業に従事中、折から従業員の訴外堀野文雄とカウンターを間にして業務上の打ち合わせをしていた原告代表取締役澤田俊雄に対して、拭き掃除の妨げになるので移動するように求めたところ、右澤田俊雄が暫く待つように言ったことに端を発して、いわゆる売り言葉に買い言葉ともいうべきやりとりに発展し、訴外渡辺において、右澤田俊雄の襟首付近をつかんで引っ張るなどの暴力を振るった。

2  訴外渡辺は、昭和五五年四月に原告に雇傭されて以来、再三注意を受けていたにもかかわらず、欠勤が多く、また、過半の出勤日に二、三分ないし数分程度の遅刻を繰り返していた。

3  訴外渡辺は、常日頃、上司などから、仕事が正確ではないとか、服装が派手であるとか、事務室を歩く際に足を引きずるとか、言葉使いが乱暴であるとか、勤務時間中に職場を離れるなどの注意を受けていながら、必ずしも直ちにこれを改めようとはせず、また、業務上の指示に素直に従わないことがあったなど、その勤務態度及び勤務成績が良好ではなかった。

4  原告代表取締役澤田俊雄は、昭和五六年六月一三日、本件解雇をした際、右のような事実の概略を解雇の理由として訴外渡辺に告げている。

そして、成立に争いのない(証拠略)によれば、本件解雇当時の原告の就業規則の定めでは、原告は、「従業員が身体または精神の障害により業務に耐えられないと認められる場合」、「従業員が老衰その他の事由により能率が著しく低下した場合」、「従業員の就業状況が著しく不良で就業に適しないと認められる場合」、「その他、会社の都合によりやむを得ない事由がある場合」には、従業員を普通解雇をすることができるものとされ、「就業規則にしばしば違反するとき」、「素行不良にして会社内の風紀、秩序を乱したとき」、「正当な事由なくしばしば無断欠勤し、業務に不熱心なとき」、「業務上の指揮命令に違反したとき」、「これらの各号に準ずる程度の不都合な行為をしたとき」には、従業員を懲戒解雇をすることができるものとされていたことが認められ、訴外渡辺の前記のような所為又は行状がこれらの解雇事由のいずれにも該当しないというものではないのであって、その意味においては、本件解雇がおよそ解雇の理由に欠けるものであるということのできないことは明らかである。

しかして、原告代表者及び証人澤田俊明は、原告においては、訴外渡辺が原告代表取締役澤田俊雄に対して前記の暴力を振るった昭和五六年五月二二日当日以来、これを理由として訴外渡辺を直ちに解雇することに決定し、かねて経営相談等をしていた訴外株式会社滝口経営センターの代表取締役滝口良弘、函館労働基準監督署の担当者等に解雇手続等について相談したうえ、訴外渡辺に解雇の告知をするに際しては右滝口良弘に立ち会いを求めるべく同人と日程の調整をするなどしているうちに、たまたま同年六月一六日に本件解雇をすることになったものであって、本件解雇は、訴外渡辺が労働組合に加入し又は労働組合を結成しようとしていたこととはなんらの関係もなく、また、右のような一連の日程に鑑みても、訴外渡辺が原告代表取締役澤田俊雄に前記の暴力を振るったのが同年五月二二日であることが確かであると供述し証言するのである(<証拠略>によれば、原告代表者及び右証人澤田俊明は、被告における本件に関する審問に際しても、これと同趣旨の供述をしていることが認められる。)。

しかしながら、これを仔細に検討すると、原告代表者は、訴外渡辺が暴力を振るった日の翌日の同年五月二三日頃に前記滝口良弘に電話によって事実関係を告げて相談したところ、労働基準監督署の担当者と相談するようにとの助言を受け、同月二七日頃、訴外株式会社滝口経営センターの従業員の訴外打合正美とともに函館労働基準監督署に赴いて担当者から助言を受けたと供述するのに対して、(証拠略)によれば、訴外滝口良弘は、被告における審問において、同月二二日当日、原告代表取締役澤田俊雄からわざわざ自宅に来るように依頼を受けて、そこで訴外渡辺の解雇手続等について相談を受けたものであって、このような特別の出来事であったので、その日時等も明確に記憶していると供述しているなど、本来は誤認又は記憶違い等の生じ得べからざる事項についての供述の不一致が散見され、いずれの供述の信用性にも疑問を容れる余地がある。他方、(証拠略)によれば、訴外渡辺は、被告の審問において、原告代表取締役澤田俊雄に前記暴力を振るったのは同年四月二〇日であると供述し、原告及び補助参加人は、被告における審問及び本訴を通じて、右暴力沙汰のあった日時についてのそれぞれの主張の論拠を種々挙げているけれども、いずれもこれを特定するに足りるものではなく、このことは、いずれの関係者にとっても、少なくとも右暴力沙汰の発生当時においては、それが必ずしも特記すべき出来事であるとは考えられていなかったのであって、むしろ、本件解雇前後に至って始めて回顧的に右暴力沙汰の日時を特定しようとしたものであることの端的な証左であるといってよい。また、(証拠略)によれぜ、原告は、あらかじめ原告の就業規則の解雇条項に照らして訴外渡辺の解雇の適否や手続を検討したことはなかったばかりか、本件解雇当時においては就業規則を記載した書面の所在さえ不明であったというのであって、そうとすれば、そもそも原告が前記暴力沙汰の直後から訴外渡辺を解雇することを決定し、訴外株式会社滝口経営センターや函館労働基準監督署の担当者の助言を求めたうえ、訴外滝口良弘の立ち会いを求めるべく日程を調整するなどしていたために、訴外渡辺の解雇が遷延したということ自体が疑問であって、原告代表者及び証人澤田俊明の前記供述及び証言並びにこれと同旨の同人らの被告における審問の結果(<証拠略>)も、直ちに措信することはできないものといわなければならない。

そうすると、訴外渡辺が労働組合への加入又はその結成に向けて主導的な役割を果たしていた最中の昭和五六年六月一六日の時点において原告が本件解雇をしたことを首肯させるに足りる他の合理的な理由が存在することを認めるに足りる事情は見い出し難く、したがって、原告は、その従業員の団結権を侵害する意図をもって、労働組合への加入又はその結成に向けて最も主導的な役割を果たしていた訴外渡辺を原告の企業外に排除するべく、本件解雇をしたものと推認すべきであり、本件解雇の本質的かつ不可欠の動機は右の点にあるものということができるから、本件解雇が労働組合法七条一号及び三号所定の不当労働行為を構成するものとした被告の認定・判断は相当であり(この場合において、本件解雇に解雇の理由があるということとそれが不当労働行為を構成するものとすることとは、相容れないことではない。)、これに対する救済方法として被告が原告に対して命じた本件命令部分も、被告の裁量の範囲を超えた違法なものということはできない。

四  以上によれば、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担については行政事件訴訟法七条及び民事訴訟法八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村上敬一 裁判官 園尾隆司 裁判官 垣内正)

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